スヌーピーのおもいで
soft_machine
スヌーピーは
チャーリーが手をうてば
しげみを嗅いで飛びこえる
チャーリーがものを書けば
悩ましそうに眉をよせる
チャーリーがひざまずいたら
しろめを剥いてだかれる
消毒液のにおいただよう
スヌーピーはうすい陽射しの
あおじろいキャンパスにおにあい
木枯らしが火を立てる
焼却炉のコンクリートにこしかけ
チャーリーがこっちを見ている
渡り廊下の影がふと足どめた
ゆがんだガラスの
スヌーピー
プラスチックの数字が
くびにぶらさがっている
いらないなまえの代わりに
それをだからいまはまだと
きみはGパンにつっこんで
うつむいた
だのに
見上げるスヌーピー
その瞳の空は果てない
教えておくれ、チャーリー
耳をすませば、スヌーピー
きみの知ってるこれまでから択んで
おなじ屋根の下でくらした
かごの鳥のふるまいと
身勝手な猫のゆくすえを
息は吸われたのか
それとも吐かれたのか
よぎった羽根のはばたきや
爪にはさまったうろこのかたち
あの日から僕らが
弧りかたくしてしまった
これまでのすべてが
あのベッドに横たわれば
やり直せるのかと
きみはさくらいろに塗られた道を
スヌーピーたちとならんであるいた
いつもチャーリーは口ごもっていた
たまにスヌーピーはそっぽを向いた
おまえ達の生活はどこから眺めても
ベートーベンと野球帽でことたり
空想の空でじゃれあった
振り子のように
タクトのように
ひかりにさらし
かぜにあらわれ
ねむりはそんなおまえたちをいつか
あのアデンへとたどり着けるだろう
おまえのちいさなしっぽが
泣いたり、笑ったり
そこに、たしかに
未来が、あったはずなのに
ねぇ、チャーリー
こんなにも風の強いおもいでは
いつか誰かの嫌がったって剥いた胸に
刻み込まなくてはいけないの
とき折りひかる
ますいの効いたあの夏
噴水のくだけるかがやき
錠剤ひとつぶ落とす
うたがいの海
駆けてゆく
おまえとぼくが
だきあって眠りこんだ日々を
教えてくれ、チャーリー
スヌーピーたちは
ねむり
くらい
幸せだったと
スヌーピーたちは
はしり
まぐわり
幸せだったと
言ってくれ、チャーリー・ブラウン
いまも空にはおまえの
においが満ちているからと
ここは、いつだって楽園なんだと
屋根にあおむけ
キャンパスのあちらこち落ちる
ポプラの影に憩うスヌーピー
いまも誰にもなつっこい
冬の日だまりのぬくみ
窓ごしに見戸惑うチャーリー
そのぬいぐるみの手をして
黒目の大きなかけぬけに
白衣の重ね着
チャーリーは舌にのせて呟く
シュルツの指先では
消しゴムをかけられ
いかれなかった未来が