狼煙
プテラノドン

一年間で十万キロもの距離を走る男の寝息はエンジンそのもの。
サウナの仮眠室で眠る上司と二人、低く唸るモーター音は、
薄っぺらなガウンや毛布では遮れない。妻は、子供はいるのか?
寝言は聞きとれないし、聞き慣れない名前はいちいち覚えていまい。

土曜の夕方、友人のもとに部下から電話があった。僕らは土手で
キャッチボールをしていた(博打で負けてオケラだった)。
取引先の車にフォークリフトをぶつけたその内容や、
尻拭いをするはめになった友人の心境といったら、もう

会議中に電話が鳴る。液晶に映る呼び主を見て部屋をでる。
サイレンと木枯らしに混じって友人の上ずった声が聞こえる。
聞けば、会社の車庫が燃えていて、直後に部下から連絡があって、
火をつけたと。
数百キロか数万キロ、足取りは掴めないまま、狼煙が上がる。
友人は焼け焦げたエンジンに囲まれ、部下はそことは殆ど無縁の
遠いサウナのモーターに囲まれていて。






自由詩 狼煙 Copyright プテラノドン 2011-02-11 13:12:30
notebook Home