ぼくに手紙を
オイタル

だれかぼくに
長い手紙をくれまいか

すっぽり暗いすり鉢の空の底
吹雪のあけた だだっぴろい広場に
まんべんなく雪は敷き詰められて
だれかが夕暮れの紅いろうそくを吹き消す
すると
取り落とした白いビニール袋や
首をすくめるダウンジャケット
得体の知れない足跡や足踏みなんかが
狭い歩道をいっせいに運ばれてくるんだ

そんなとき
だれか どうかぼくに
長い手紙をくれまいか
中身なんて こんにちはとさようなら
それだけで分厚く封筒をはみ出す
役立たずの長い手紙をくれまいか

歩道の行き着く先にある
ぼくの町のいちばん大きな郵便局は
市役所のななめ向かいに立ちひざで
細々と冷たい消雪の水を流してる
奥のほうで 幾人かの黒い影が
ゆらめく
(今日も立ち木が
 風に震えあがって)

雪の根から生え出して
身をたわめるポスト
遠くから来て深く吹雪をかむったおとうさんや
紙包みを抱えた直径五十センチのおばあさんが
たたいたり 背伸びをしたり
時々悪気なくつねってみたり
みんな
赤いね なんて言ったか言わないか に
すぐ消えて

そのときふと
薄い路地の陰から
懐かしい友達が 懐かしいままの顔で
ぼくに手紙をくれまいか
断りそびれた手紙
理由のない手紙
蔓の巻いた手紙
曲がった指の先に
凍てついた星の切手を貼り付けて

黙り込んで

湯気立つカップに手を伸ばし
猫の丸みをなでながら
底の抜けた夜の広場のいすに腰掛けてぼくは
雪明りを頼りに
闇の中の他愛もない文字を追うだろう
拝啓も海景もない
時候も微香もかまわない
そんな埒もない
長い手紙を
だれか手紙をくれまいか


自由詩 ぼくに手紙を Copyright オイタル 2011-02-10 21:56:42
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