置き忘れた鞄
折口也



何だかしくしくと
両手がさみしくてしかたない
ずっと手に馴染んだ鞄を
どこかに置き忘れてしまった時から

どこに置き忘れたのかも思いだせない
ゆらゆらと漂う霧のように
ぼんやりと透けて
どこか遥かな探し物をするみたいだ

この手に感触は残っている
ついさっきまで握りしめていたみたいに
手のひらは余熱でふるえている
風を受ければ冷たく感じるくらいに

新しい鞄を握りしめていても
何だか軽すぎて尚さみしい
置き忘れた鞄の中身を
もう一度だけでも確認したかった

しまい込んだままの
人知れず書きためた想いを
機械式の設計図を
苦いチョコレートの味を



自由詩 置き忘れた鞄 Copyright 折口也 2011-02-10 11:42:20
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