{This is a pen.}
高梁サトル


「No,This is a pin.」

【命令】されることにうんざりして家を出た金曜日の夜
4丁目の角の公衆電話のガラスに映った顔は青白く
コインを握りしめた手で覆うと
違和感を含んだ空気が鼻腔を抜けて腹の底に滑り落ちてゆく

【 】の中の質量ぶん軽くなった足と伸びた前髪を
交互に見ては何処までも歩こうと星を見上げて目指すけれど
ポケットの中の携帯電話の
電源を切ったら誰かを殺してしまったような気がして
ごめんねと呟くたびに加速度を増してゆくバイアスの
上を転がってゆく先に見えた景色が
あまりにも退屈そうだったから

踵を返し
寒空に鳴きながら
文字列のiをひとつeに書き換える

故意に発生させた矛盾も整然として
わたしたち分子機械は簡単には崩れない
どのいとなみにも与しない細胞を創り上げようとしても
引き戻される
4丁目あたりで

だから今日も
【おかえり】に「ただいま」を
【あいしている】に「わたしもよ」を
呼吸とともに命題を飲み込んで

わたしは【わたし】を完結させる。


自由詩 {This is a pen.} Copyright 高梁サトル 2011-02-10 07:22:50
notebook Home