三連休
小川 葉
そろそろ五時半だ
明日から三連休
書類を発注していた業者が
ぎりぎりに駆け込んでくる
私はダメ出しをした
月曜の会議にこれでは出せない
肩を落として業者は帰った
その後ろ姿を見て
なぜあんなに期日を与えたのに
できなかったんだろうと首を傾げる
目が充血していたから
寝ていないのかもしれないけれど
私だって寝ていない
今夜も夜景がきれいだった
高層ビルの最上階で
接待しながらそう思った
夜景がきれいなのは
誰かが残業してるからだ
とも思った
明日は朝一の新幹線で故郷に帰る
一人暮らしの母が待つ
実家の雪下ろしをするために
そういえば
あの業者の赤い目の人も
雪国生まれだと聞いた
明日も仕事なのだろう
私がダメ出しをしたために
彼はいつ帰るのだろう
一人暮らしの母が待つ家に
考えてみたけれど
わからなかった
わかりたくなかったのかもしれない
けれども明日は
朝一の新幹線で故郷に帰る
私だって寝ていないのだ
それでも夜景が見たいから
高層マンションの部屋の窓から
君をさがした
この美しい夜景のどこかに君はいる
けれども私は明日の朝一番の
新幹線に乗らなければならない
私だって寝ていないけれど
その頃君は仕事を終えて
家に帰るのだろう
そして心配するだろう
故郷で一人で暮らす母のことを
雪に埋もれて生きている母のことを
雪ひとつないこの街で
北へ走る始発の新幹線を見るだろう
あれにさえ乗れば
乗ることができたらと
私を憎むかもしれないだろう
そして私は雪下ろしを終え
母を連れて雪祭りを楽しんでいた頃
君は人しれず親孝行をしているのだった
月曜の朝
何もなかったような顔をして
君は書類を届けることだろう
完璧に仕上げた書類と
さらに赤く充血した目と
霜焼けで赤く腫れた君の手を見て
三連休は終わるのだろう