地平にのこる感触
乾 加津也

設えるより
解きほぐすようにして
わたしたちの地平は瓦解する

 いたたまれない
 この指先の感触
 いまも憶いだせない

まっすぐな壁をつくり
(腕が通るほどの位置に)
すんだ窓をはめこむ
玄関をくりぬいて往来の靴音
鍵もいるかい
そんな放談でコーディネートも満ちあふれ
あしたとその手前
色香が燃焼にかまけてこそばゆい
いちにちいちど
水平の気持ちになって
からだは底なし池のうわべをながれてもいく




廃墟にいる
弔問する
わたしたちはそれぞれに瓦解する地平をさすって石のように身をかがめる
一輪挿しの
黄昏の
うしろに延びる舌のような影がうっすら燃えて
指は
なくした感触を拾いあつめるほどに一様に反りかえる
実は
話したいことばなど
どこにもなかった
そんな永遠(とき)が
長くも短くもない耳のそばで
紫煙のような筋を残すから



ちかくで愛する人の踝をなぜながら
ふりむくときにだけ
やさしく水晶はゆるむ


自由詩 地平にのこる感触 Copyright 乾 加津也 2011-02-08 16:08:30
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