顛末のひと
恋月 ぴの
出かけようとして出かけられなかった朝に
ひとりの女性の顛末を知る
喩えようのない過去の行状
足跡の是非はともかくとして
不治の病に長らく臥していたとのこと
病棟の小窓に映す時代の移ろいを
果たして彼女は知り得ることができたのだろうか
ひとひとりの居場所
それを手にいれるのは容易いようで容易くはない
水面で弾ける小石程にも波紋は拡がらず
立ち枯れた葦原を渡る北風の冷たさが身に染みるばかりで
*
出かけようとして出かけられなかった朝に
ひとりの女性の顛末を知る
そんな日は風邪気味なのを良いことに
うつらうつらと寝返りを打ちながら
人生の有り様なんて考えてみる
答えなんかありはしない
至極当たり前なことだと理解はしていても
仮に予定通り出かけていたとしたら
何かしら移ろいだのだろうか
いちずに想い続けたあのひとに告白したとして
あっけない「休んでいこうか」のひと言に
頷くまでもなく
ひと昔前なら曖昧宿とか呼ばれそうな寂れた一室で
終の想いを遂げることが出来たのかも知れず
*
出かけようとして出かけられなかった朝に
ひとりの女性の顛末を知る
数十秒毎にひとりの日本人が死ぬ
ふとキーボードを叩くのを止めた間にも誰かが死んでゆく
そして死することに理由を問われないとしても
過去のとある出来事について
それぞれの記憶を呼び覚まされ、暫し想いを巡らす
けれども、それは密やかな湖畔に立ち並ぶ行見出しのひとつに過ぎず
ゆっくりと朽ち果てては、やがて見失った筈の青空を仰ぐ