hamburger lady
ehanov
雨が降ってきた。"hamburger lady"がやってきた。雑草に露の湛えられた音が、道路工事のピストン音と重なりながら、ビルとビルの間の路地から聞こえる。雨が降ったのだ、と机の上に花瓶を置いたとき、窓硝子に"hamburger lady"が映った。空は曇っていた。カーテンは帯に纏められていたため、窓硝子に"hamburger lady"が映った。髪は黒かった。衣服は濡れていた。彼女はどこも見ていなかった。
机上に花瓶があった。外では雨が激しかった。こういうとき、虹を見たいとは思わない。だってそれは砂漠で生まれた終末の音楽だから、と、"hamburger lady"は言った。瞳は青かった。唇は赤かった。そして手のひらに切り傷があった。激しい雨には死が漂うの。燃えるものは途絶えるしかないでしょう。彼女は花瓶を一撫ですると、次に花の茎を撫でた。花は薔薇だった。薔薇は花瓶にあった。花瓶は透明な紫で、薔薇に合うものではない、と"hamburger lady"は言った。彼女は異端者の影が自分に重なることに怯え、青白く震えていた。
花瓶に水は挿し込まれていなかった。コンポからレゲエが流れている。古いダブの方法であった。土の上の太鼓、土の中のマイク、土の底から生まれる新しい命を木の根は木の根として発見するのだろう。つまりそこには語られた物がある。我々に繋がれた一本の糸。アナログミキサーのレベルメーターが半分まで光り、黄緑色に感知されて生まれた新しい命は、古い鏡としてステレオを揺らし、雨の嘶きと交じり合い。ハンバーガー女、ハンバーガー女。お前の血液は、連なっているか。
水の挿し込まれた花瓶は机上にあった。窓硝子に"hamburger lady"が映る。瞳は青く、唇は赤い。ピストン音は、激しくなった雨音によって死んでいる。玄関を出れば、音は再び生まれるはずだから。"hamburger lady"は言った。そうしてドアは閉じられ、窓硝子に"hamburger lady"が映る。外は曇っていた。歩くと、眼が閉じられた。赤黒いなかに、光が明滅していた。(それが失われたのは何故かわからないが、というよりもそれが失われたとする時の移行に何かしらの公理を与えるような神の囁きがどうも聞こえづらい。)それが失われるころ、ピストン音があるようになり、眼を見開くと、労働者の周りに、水しぶきがあった。あちらこちらに、虹があった。