プリオン
士狼(銀)
目を開けたら何かがそこに立っている気がして
強く目を瞑る
突然シンクが音を鳴らす
暗い部屋に低い音が反響して足元から冷たくなっていく
そろり、と薄目を開けると
あ
腹が減ったな、と思い
通りを一つ越えたところにある弁当屋で唐揚げ弁当を買った
手持無沙汰に鍵を鳴らしながら帰ると
彼女がいた
あれ
あ、おつかれさまです
と言われて初めてそれが彼女を着た隣人なのだと気付いた
あ、それが昨日言っていた例の女ですか
ええ、ええ、そうなんです、どうですか、この表情、たまらないでしょう
本当に、その赤いハイヒールもよく似合っていますよ
これは私のこだわりでしてね、今日、初めて人間を着るもんだから
そうでしたか、
ああ、そういえば、お聞きしたいことがあるんです
なんでしょう?
中身はどうなさるんです?
中身、ですか?
ええ、その、何と言えばいいか……昨日の、猫も、今の彼女も、その…
と、彼女は笑いだした
愉快で愉快でたまらないといった感じだ
僕は理解ができないでただただ彼女の笑いが収まるのを待った
ああ、すみません、あなたが面白いことを言うから、ふふ、もう少し待ってください、ふふふ
それ、彼女の中身ですよ
彼女が指差したのは僕が持っていた弁当屋の袋だった
え。
視線を落とすと
彼女の赤いハイヒールには猫の毛がたくさんくっついていた
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戯言と童話