プリオン
士狼(銀)


 目を開けたら何かがそこに立っている気がして
 強く目を瞑る
 突然シンクが音を鳴らす
 暗い部屋に低い音が反響して足元から冷たくなっていく
 そろり、と薄目を開けると

   あ


腹が減ったな、と思い
通りを一つ越えたところにある弁当屋で唐揚げ弁当を買った
手持無沙汰に鍵を鳴らしながら帰ると
彼女がいた
あれ
あ、おつかれさまです
と言われて初めてそれが彼女を着た隣人なのだと気付いた
あ、それが昨日言っていた例の女ですか
ええ、ええ、そうなんです、どうですか、この表情、たまらないでしょう
本当に、その赤いハイヒールもよく似合っていますよ
これは私のこだわりでしてね、今日、初めて人間を着るもんだから
そうでしたか、
 ああ、そういえば、お聞きしたいことがあるんです
なんでしょう?
中身はどうなさるんです?
中身、ですか?
ええ、その、何と言えばいいか……昨日の、猫も、今の彼女も、その…
と、彼女は笑いだした
愉快で愉快でたまらないといった感じだ
僕は理解ができないでただただ彼女の笑いが収まるのを待った
ああ、すみません、あなたが面白いことを言うから、ふふ、もう少し待ってください、ふふふ
 それ、彼女の中身ですよ
彼女が指差したのは僕が持っていた弁当屋の袋だった


   え。


視線を落とすと
彼女の赤いハイヒールには猫の毛がたくさんくっついていた


自由詩 プリオン Copyright 士狼(銀) 2011-02-06 13:25:11
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戯言と童話