大洪水
葉leaf

 雨が、雨の首長が、雨の葬列が、雲々とマンション群の順位を定めながら、一枚の焦げたパンの坂を軸にして、三枚の濡れたシャツの日付へと回転していき、神経の限りない深度を測定していた。それは傾き、音から音へと無音を運び、屈折した人類との距離、送還され続けるペンとペンケース、墓のような道路の終結、それらによって漂白された身体の理屈を過ぎ去っていった。成績発表で必修単位が不合格、眼鏡のフレームが切開するパソコンルームの机に肘をついて、今日が昨日を倒し、昨日が一昨日を倒してそれが無限に連なっていくのを見つめていた。三号棟から出て、傘をさし、人間の沙漠と五度すれ違いながら、足音を自転車へ運んで帰宅する。
 空の画面に、空の抽斗に、逃げていく木の葉と無数のウィルスが、狭い声のようなものを奪いながら救出されていた。部屋から漏れ出るもの、例えば杭や海や石、それらが発酵した熱が反転して、疎ましい内部の切り絵を傷害していった。分割され、照合され、凝縮され、さらに迫害される中で、あらゆる遠さが折り返され、あらゆる速さが縮れていくのを、視界がこぼさず署名していった。関節と筋肉の織りなす戦模様、血液と細胞の書き上げる住所録、皮膚と蒸気の切り捨てる部屋の装置、いったいどれが国を名乗るだけの絶望を指示しているのか。
 空と雲とが際限なく平均され、電線の機知が街をなだらかにしていく中、すべての他人は緩やかに融合して一人の家族になる。その家族の、整った眉、大きめの鼻、少し歪んだ唇、そして鋭い眼、それらの配偶の誠実さから語りだされる文字たちの効力について実験を重ねている。読むべき問題集を選び、堅固な鍵穴へと合わせるべき記号を成形し、テーブルの上に広げられた都市を手のひらで切り倒し、横へ横へと眼を現像していく。ドアをノックする音が結んだ速力に未来を繰り返させ、文と文との組合の底に沈むいがみ合いを捕食する。
 目覚め、さらに目覚めると、胸から頭にかけて炎の死体が時刻を告げていた。追試から留年へ向かって一組の食器類が輪唱していた。視線を、横に四分の一回転、縦に四分の一回転させて、カーテンを巻き上げ、光の枢軸を跳び越し、テーブルの翼から二歩進んで、咲いていく管たちが食欲を置き換え続けるのを、高低、善悪に振り分けた。五十二キロ離れた波のしずく、百三十グラムの鳥のさえずり、たった一個のまつぼっくり、それらを束ねる意志の動脈に差し込むべき道を一つも持ち合わせていない。試験会場は確か、雲の舳先から連合した情動のるつぼだったか、それとも建物の根から滴った煙の塊の中だったか、それとも・・・


自由詩 大洪水 Copyright 葉leaf 2011-02-05 06:30:43
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