暮色界隈
salco
駘蕩暮色
百年が行き交うカーブ清水坂
対岸に獅子の吼声鷗外荘
少壮の
精鋭双眸ナカータ似
嫡子あげ「不器量」
御姫返納す
くちなしの哀れ赤松登志子かな
坂下にありき足拭き女せき
かじかんだ指の行き暮れ池の端
エリーゼもひとり築地は精養軒
坂下 …文京区根津
文教暮色
衛生観 御身の狆も懐紙越し
「雨しょぼ」と芸妓厭悪し妾さえ
後添えも差配
母上家事総裁
惚れたのは二十三歳
妻の方
学のみを喜びとすと言う良人(小倉)
ただいまとサアベル鳴らしチュウなどす(小倉)
新妻の美貌鑑みはかりごと(小倉)
お志げさん
床上げ目剥くサック策(小倉)
千蛇木暮色
観潮楼 峰が陣取る志げが出る
孟宗の書斎に端坐 林太郎
屋根の下 二世帯廊下通りゃんせ
パッパ恋う
茉莉杏奴類 於菟も恋う
陸軍の脚気蔓延
轍残す
同胞の足跡抽齊 筆で掘る
坂道を余命削りて
図書通い
死を前にエリス焼却
妻に
指示
末子暮色
秀麗の赤さん
不律デスマスク
勉強は「死んで呉れたら」愚母泣かせ
父東大
兄義兄東大 叔父東大
小金井の叔母が蔑む画留学
文豪の息が敷地で書店する
兄姉と父描き売れてルヰひとり
位階なき「ぼんちこ」糊は遺産のみ
凛とした相貌似たる「劣等児」
遠き夏
鷗荘日在 類晩年
兄 … 於菟(異母兄・医学博士)、義兄 … 山田珠樹(茉莉の夫)
叔父 … 篤次郎(林太郎次弟・開業医、劇評家)、小金井良精(叔母喜美子の夫・医学博士、東大教授)
鷗荘 … 千葉県夷隅市大原町日在にあった別荘