訃報ー通夜3ー
……とある蛙


 郊外電車の車窓から夕暮れの開発地が見える。電車はあるときは半地下に潜り、あるときは高架線となり、田園地帯を我が物顔に走る。路線の駅に会わせて区画整理された街並みは美しいが、ほんの数百メートル移動する車窓からは開発に乗り遅れた田畑が雑然と交錯されるわけでもなく続いてい行く。その田畑の丘陵地の果てに今日の一日が真っ赤な顔をして沈もうとしている。あたりは照り返しで赤くなっているが、情緒的な綺麗さはなく、金儲けに破れた屍といわゆる土地成金の流した血がごちゃ混ぜになって陰惨な風景となっている。そこに整った規則性はない。
 目的地のM平に到着するが、一五年前と変わらない風景と、ただ一点破産したS不動産の建物が貸CD屋のビルに変わったぐらいか。
 
Kさん、あなたの訃報を今日Faxで受けとり、少し驚きました。
 一年前の胃癌の摘出手術が成功し、事務所にもちょくちょく顔を見せてお話ししたこともあり、完治したと勝手に想像しておりました。あなたは私よりお若い。私に対しても常々「あまりお酒をお飲みにならない方が良いですよ。身体あってのモノダネですよ」などと注意して下さいました。あなたとつきあい始めた二〇年前、私よりお若く元気だったあなたとよく飲みに行きました。しかし、ビールしか飲まなかったあなたがこんなに早く逝かれるとはあの時点で想像もつきませんでした。二人のお子さんも大きくなれましたが、まだ大学在学中とお聞きしました。また、お孫さんの顔を見たわけでもなく、さぞかし残念なことと存じます。
 あらためて ご冥福をお祈り申し上げます。

 通夜はあっけないほど早く終わり、参列者達は三々五々郊外電車に乗車して東京に向かう。厄落としで鮨を二個ばかりつまんだが、食べた気がしなかった。
 今日は早く帰ろう。とにかく早く帰ろう。と郊外電車の中で呟いていた。
 今日はとにかく早く帰ろう。


自由詩 訃報ー通夜3ー Copyright ……とある蛙 2011-02-02 11:56:08
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