とても控えめな愛に育まれていた頃
西天 龍

駅前のデパートが閉まると聞き
短い帰省の間、立ち寄った
商品のない売り場と
間もなく解雇される店員たちの笑顔が
とても痛々しかった

逃げるようにエレベーターのボタンを押したとき
七歳の自分がそこにいて
つないだ手の先には父がいた
父はなぜか正装
七歳の自分は東京風の売り場よりも
押せば光る三角ボタンや
大食堂のクリームソーダーがうれしくて、うれしくて
早く、早くと父の手を引いている

ここに来るのはハレの日で
自分も一張羅を着せられていた
早く、早くとつないだ手の先の父の
はにかんだ笑顔思い出し
涙がこぼれた

とても控えめな愛に育まれていた頃
暮らしは決して豊かではなかったけれど
折り目正しくて、きちんと我慢させられていた
だからハレの日ことは、決して忘れない
だから自分は幸せなのだと気づかされたけど
思い出の縁がまたひとつ消えていく

エレベーターが着き人が降りてくる
訝しがられるけれど、
あふれる涙拭うこともせず
手をつなぐ二人の後姿いつまでも
見送っていた


自由詩 とても控えめな愛に育まれていた頃 Copyright 西天 龍 2011-02-01 00:58:16
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