とても控えめな愛に育まれていた頃
西天 龍
駅前のデパートが閉まると聞き
短い帰省の間、立ち寄った
商品のない売り場と
間もなく解雇される店員たちの笑顔が
とても痛々しかった
逃げるようにエレベーターのボタンを押したとき
七歳の自分がそこにいて
つないだ手の先には父がいた
父はなぜか正装
七歳の自分は東京風の売り場よりも
押せば光る三角ボタンや
大食堂のクリームソーダーがうれしくて、うれしくて
早く、早くと父の手を引いている
ここに来るのはハレの日で
自分も一張羅を着せられていた
早く、早くとつないだ手の先の父の
はにかんだ笑顔思い出し
涙がこぼれた
とても控えめな愛に育まれていた頃
暮らしは決して豊かではなかったけれど
折り目正しくて、きちんと我慢させられていた
だからハレの日ことは、決して忘れない
だから自分は幸せなのだと気づかされたけど
思い出の縁がまたひとつ消えていく
エレベーターが着き人が降りてくる
訝しがられるけれど、
あふれる涙拭うこともせず
手をつなぐ二人の後姿いつまでも
見送っていた