マルセリーノの歌
たま

れんちゃん、お眼目がとろとろ
おひるねの時間
ママはお出かけ
ぼくはギターのれんしゅう

外はさむいから畑しごとはおやすみしてしっかりれんしゅう
きらきら星と
メリーさんのひつじ
ターンタ♪タンタン♪タンタカタン
メリーさんのシンコペーションはむずかしい
八分音符を小指でおさえるなんて
だれが決めたのだろう
小指がつまずくたびに
れんちゃんのひだり耳がはねて、ね息がとまる


さかもと先生はちいさなカフェのマスター
いつもコックコートを着たままギターを手にする
口ひげが似合うハンサムな青年だった
今日はギター教室三日目
カフェの片すみでレッスンがはじまる

じゃあ、宿題からはじめましょうか。
はい。よろしくおねがいします。

きらきら星とメリーさんのひつじ
なんとなくうまく弾けた

あ、いけますねぇ。なかなかよかったですよ。

さかもと先生二十七才
ぼく五十八才
先生もぼくも中学生のころからギターをはじめた
先生はクラシックギター
ぼくはフォークソングだった
いまでもFやBフラットのバレーコードは苦手だけど
ごまかしながらやってきた
でも、このままではおわりたくない
ギターを弾くたびにそう、おもった


十三月の月あかりのしたで
れんちゃんが足をあげておしっこした

あれ、れんちゃん
あんたおんなの子でしょう

犬も歳をかさねたら生き方がかわるのだろうか
ぼくはいつかわるのだろうか
まだ、時間は残されているだろうか
きらきら星のかがやく宇宙を見あげて
そう、おもった


う・・ん、今日はなにをやろうかなぁ。
さかもと先生はつぎの課題曲をさがしはじめた

あのぉ、もうすこし大人なやつをやりたいんですが・・。


いつ、どこから大人なんだろうか
中学生のぼくが手にしたギターは大人の入り口だったのだろうか
だとしたら
いつ、どこで迷子になったのだろう

マルセリーノの歌
再びめぐり逢えた大人の入り口なのだとおもった

もう、迷わないと
老いはじめた指が残された時間をはじく
つまずいても
笑って、はじく











自由詩 マルセリーノの歌 Copyright たま 2011-01-30 14:19:01
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