猫が通り過ぎる
within

ねこのこえがきこえる
冬空の底のそこのほうから
窓をあけてみても
すがたはない
姿などなくても
わたしだけに届くように
ないている
てつがくなどなくても
ねこは生きていける
わたしのてつがくも
うまれたときにはなかったもの
なのに今では
中毒のように
セカイを塗りつぶしている
だれにも見つからないトンネルの
向こう側で

ここはわたしだけの場所
人にもけものにも
みつからない場所
電気も水道も下水管も
届いてない場所

みてごらん
みてごらんといわれて
みてしまったから
もどれなくなった

死んでしまったひとたちが
宿る森の奥には
塗られてない
真っ白なカンバスが
ほこりをかぶっている
積もったほこりだけを祓って
またあるきはじめる

ひらひらと
蝶がまうトンネルを通り抜けて
いっぴきのねこになる
ひととしていきるのは
わたしにはむずかしいのである
スケッチブックをもって
ひとのまちにもどる
ひとのまちにもどれば
ひとらしいてつがくを持って
わたしはねこのすがたになる
すがたはなくとも
きっとだれかにむけて
ないていることだろう
スケッチブックに
ひとのまちを描いていることだろう
ふゆがやわらかくとけるまで


自由詩 猫が通り過ぎる Copyright within 2011-01-29 19:02:03
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