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ぼくの中にふたりの人間がいる!そしてぼくは不幸にも、そのどっちがどっちを打ちのめすのか、見当がついてるんだ。
――エヴァリスト・ガロア
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世界の隠された扉を開け放ちその深奥の秘蹟
を目の当たりにした少年の前に人の世
はその冒険を愚弄するかのよう
に醜い腸
を晒け出したのだ
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「ぼくはときどき思うんだ何か計り知れ
ない整合性がこの宇宙を支配しているのだと
人の智恵など及びがたい巨大な耀きがこの世界
の帷
を剥ぎ取った裏側にはあるのだと
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ぼくらの動物のような営みにさえ宇宙の不思議
な煌めきが現れるするともうひとりのぼく
は苛立ってこう叫ぶんだ真理などという
ものはこの泥のような世界にむりやり人間
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が宛てがおうとしている幻にすぎない
騙されるな最も狡く最も不正にまみれた人間
たちが最も高い真理をわがものとしたかのように
君臨しているのだから宇宙は奴らの捏造した真理
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とは無縁だぼくらはみな最後には泥のように崩れ
て宇宙の静寂に還るのさ」そうだったエヴァリスト
きみはこころから愛する人を喪ったのだきみは憤怒
の短刀をかざす「もし社会が私を裏切るならば!」
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きみがいま立っているきみの馴れ親しん
だ明晰な世界 rationnellment connue
揺籃の有理数なつかしいクロトン
*1の微睡み
きみの父の柩
は聖職者の足で踏み蹂られた
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きみがきみの親しい世界に新しい数の次元を付け
加えて行くたびにきみが愛してやまなかったきみ
の父きみの母は情夫の寝床から葬列を見送った
文字も識らない村人たちが柩に涙を注いでいた
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そしてきみが新しい次元を付け加えるたびに無数
の多面体が回転し光束は散乱する有理な領域
はつぎつぎと拡大しぼくらの目は少しずつ開かれ
て行くのだきみの勇気を思い出しながら
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