パカッと割れた苦悩なんかない
石川敬大




 なにが有効な手なのか
 わからないままに
 かれは
 もう、とっくに
 地図に表記されていない場所にきていた

 音がない
 姿がない
 赤い血が
 ながれることのない草がない言葉の荒野に
 ヘリコプターが頭上で静かにホバリングしている
 みえない電波を送受信している


 そのときにも逡巡する


 かれもたしかに
 日本人の気質をもちあわせているのだろう
 期限が迫り
 なげやりな気分に陥る
 いや、窮地から脱したい
  ―― ふりだしにもどそう
 でも
 ふりだしって
 どこにあるのだろう

 モニターの耳や目に頼らず
 じぶんの足でじぶんの言葉の辺境にたつこと
  ―― すると
 地図にない
 あいまいな感情が漣だってくる
 ザッタな雲がからみついてくる

 そんなの、みんな既知
 すべて可能さ
 と、嘯いて
 大人だからと意味のない言葉で強がっている

 もちろん、地図にない
 卵を
 パカッ
 と、割ってみる

 そんな単純な手で
 割れた苦悩なんてない






自由詩 パカッと割れた苦悩なんかない Copyright 石川敬大 2011-01-28 10:11:51
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