課長さんは二度尻をふる
アラガイs


日曜日の午後だというのに冬の山下公園は閑散としていた
もちろん、どこにでもいるようなカップルの姿は、楕円の芝生に沿って据えられている木製のベンチにチラホラと、見え隠れはしているのだが
どうしたものか‥
今日は特に十代の鈴を付けたような青臭いカップルばかりだった 。
今年の冬はまた格別寒かったのだ 。
(ほら ) また一人
腹を壊した中年の男がケツを押さえながらトイレに駆け込んだ 。
(やれやれ 。
しかしこんなにも寒い日が続くと、この辺りを縄張りにしている野良犬サムの姿も運良く見当たらない 。

公園を通り過ぎるように旋毛風がひとつ、舞った 。
(ガサゴサ〜)
すっかり坊主になった樹の枝が擦れたのかと思いきや
どうやら若いカップルのおとこの方が抱きついてキスをした音だった 。
この二人、どう見てもおとこは高校生くらいで
おんなの方は中学生にしか見えなかった 。
いきなりベンチがひっくり返るほど彼女の身体に抱きついて 、無理矢理押さえつけるように唇を奪ったのである 。
おかけで、雑草だらけの花壇に身を隠しながら日向ぼっこをしていたおいらの目に
彼女の可愛らしい花柄のパンツがまるまると見えたよ 。

この若いカップルが気を取り直して 二度目のキスをしたとき
壊れかけた三輪車みたいにバタバタと駆け込んだ中年のおやじが、黒いかばんを小脇に挟んで、よれよれのハンカチで手を拭きながらしこしことトイレから出てきた 。
おやじは小太りでメガネをかけていた 。
( ふぅ 〜) と ため息をひとつ吐き出すと、 横目でじろりと若いカップルを睨みつけ、 髪の毛をたくしあげながら 二つ向こうのベンチに座った 。
たくしあげた前髪の毛は、かなり薄かった 。
しかし、(まてよ‥
あの姿は どこかで見た記憶があるにゃあ‥ )
(そうだ ! ちがいない あの中年のおやじは 〇〇ボルケ商事の課長さんだ ! )
(おいら、以前生まれて間もない頃
あの会社の近所に捨てられたんだにぃ !)

(おっと‥ と)
身を乗り出して眺めていると、 いつのまにやら散歩中の野良犬サムがやって来て、若いカップルの方にゆっくりと近寄っていった 。
どうやら チョコレートのお裾分けにあやかるらしかった 。

すると、サムの姿を見て
二つ向こうのベンチに腰掛けていた課長さんが、突然口笛を吹いた
課長さんは(ヒュヒュー)と、下手くそな口笛で、こっちにおいでおいでしながら、サムに手招きをしていた

(アレレ‥?
確か、 あの課長さんは、 むかし噛み付かれたことのある犬が‥ キライだった はずにぃ !)?

そして、驚いたことに課長さんの手招きする姿を見た野良犬サムまでもが、尻尾を振りながら課長さんの方へ走ってゆくではないか‥
そんなこんなを見ていた おいらや カラスにひよどりたち
空高く失速するハヤブサまでもが、みんなみんなびっくり仰天したふりをして
実は、何かを期待しながら眺めていた‥‥‥ んだとさ 。





‥‥‥‥‥つづく



自由詩 課長さんは二度尻をふる Copyright アラガイs 2011-01-27 04:51:04
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