機械にまつわる夜の話
かいぶつ

機械を買った。
何の役にも立たない機械

球体を半分に切った形の
透明なガラスケースの中に
小さな羽根のついたモーターと
豆電球だけが配線され
丁寧にハンダ付けされた
小さな機械

特別な意味もなく
立ち寄った上野のリサイクルショップで
適当な値段の付けられた
それを手に取り眺めつつ
せっかく上野に来たのだから
何かひとつ、土産でも買って帰らなければ
いけないような気がして
何も聞かずに会計を済ませた

まったくもって甲斐のない買物だったし
それをわざわざ妻に話す理由もなく
飾りにもならないデザインなので
その日の内に窓辺に置かれた熱帯魚の水槽の中へ
ひとつの珍奇なオブジェとして
沈められた

廃物のように沈められたその機械に
ネオンテトラは警戒し
近づこうともしなかったが
しばらく経つと水槽の中はまたいつものように
穏やかな鑑賞用の小宇宙を成し
私の唯一の趣味として充分に機能していた


ある日の夜
妻も子どもも寝静まった頃
私は喉の渇きを訴えるように目が覚めて
冷蔵庫の中にある水を求めて起き上がると
水槽から聞き慣れぬ
妙な音がしていた

何の音だろうかと水槽へ近寄ると
もうその存在すら忘れかけ
何の役にも立たなかった機械の
アルミで出来た小さなモーターが
断続的に駆動していることに気が付く

私はなぜだか目が離せず
それは徐々に力強さを増して行き
エンジンがかかるようにモーターが
連続して回りだすと
ほんの数秒だけ内蔵された豆電球が鋭く光り
水槽の魚と私を眩しいくらいに
大きく照らした。

動揺したネオンテトラは
砂煙をあげるほど不規則に動き回り
私も同じように水中の乱れが鎮まるまでは
速まった鼓動を抑えられずにいた。


一瞬の出来事のようであったし
何時間もの出来事のようでもあった
夢のようであったし
単なる立ちくらみのようでもあった

私は窓を開けて
そよ風に当たりながら遠くの夜空を見上げた
星ひとつ出ておらず
誰も見上げていないかのような
異様につまらぬ夜空だった。


自由詩 機械にまつわる夜の話 Copyright かいぶつ 2011-01-26 03:52:00
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