黒い鳥
アンテ
涙をぬぐって
窓と枠のわずかなすき間を
テープで何重にもふさぐ
危なかった
もう少しで食い破られるところだった
鳥はどんな小さなすき間も見つけだして
部屋のなかに入ってくるから
声を押し殺す
めそめそ泣くのはもうよそう
窓ガラスの向こう側
黒い鳥たちが
背の高い樹の枝にびっしりと止まって
こちらを監視している
息が苦しい
手足がしびれる
きっと部屋が完全ではないことを
敏感に感じ取っているのだろう
部屋を見回す
もう一度たんねんに壁や床を確かめる
小さな傷や裂け目を全部ふさいで
これで大丈夫
穴はひとつもない
だれも入ってこられない
ほっとした途端
身体から力が抜ける
部屋の真ん中にうずくまる
床に仰向けになって
手足をのばす
とても静かだ
窓のむこう
樹の枝にとまったまま
鳥たちはさっきから動かない
ひょっとしたら
木の葉を見まちがえているだけなのだろうか
目をこらしても判らない
おかしくて笑いたいのに
喉に力が入らない
今となってはどうでもいいことだ
頭のなかがしびれてくる
なにも考えられない
目を閉じると
自分だと思っていたものが
曖昧になって
自分でないものと混ざり合って
区別がつかなくなる
なぜわたしは鳥たちをあんなに恐れたのだろう
判らない
きっと
些細な理由だったのだろう
耳を澄ませると
どこか遠くから
泣き声が聞こえてくる
可哀想に
きっとわたしのように理由もなく怯えているんだ
声の方に向かって進む
教えてあげなければ
ぼんやりしていた世界が
少しずつ鮮明になっていく
あれは
背の高い樹だ
その向こう
小さな家が建っている
泣き声は中から聞こえている
扉も窓も
頑なに閉ざされている
樹の枝の端にとまって
家を見つめる
大丈夫
そう伝えたいのに
声が出ない
まわりを見ると
黒い鳥がたくさん枝にとまっている
泣き声が
いつまでもやまない