ふれるひと
恋月 ぴの

はだかんぼうな大銀杏の木
それでも寒々しさは微塵にもなくて

なんだか凛々しい

思わずさわりたくなって
てのひらで逞しい幹にふれてみれば

生きているんだ

木なんだから動きもしないし喋りもしないけど
それでもやっぱそう思えてしまう

そんな大銀杏の木の下に
お父さん犬のように真っ白な犬が一匹
北海道犬じゃないらしいけど
くるっとまるまった尻尾と丸見えなお尻の穴ぷっくり

なんだかいさぎよいのかも

思わずなでたくなって
飼い主さんにことわって頭なでなでしてみた

生きているんだ

犬なんだから気持ちよさげに尻尾ふったりするけど
それでもやっぱそう思えてしまう

まだまだ風は冷たいよね

春を感じさせる日差しはあたたかなのに
吹き抜けてゆく北風は無愛想なほどに冷たい

ひと気の途絶えた家って瞬く間に崩れ去ってしまうんだね

ぽかんと開いた近所の空き地
なに屋さんだったのか、覚えてないのが悲しくて

それも生きているってことなんだから

かさかさと乾いて痛い唇にそんなことばが口をつく






自由詩 ふれるひと Copyright 恋月 ぴの 2011-01-24 17:53:23
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