夢が虫食いにされていた
真島正人


存在しないがゆえに
存在する

いくつもの
点滅する

沸点がないがゆえに
沸騰する

常夜灯のような

壁の
傷跡のような

おもむろに、
見つけてしまった

壁の
傷跡のような

筆跡の
残り香を
携え

取り替えることへの
怯えが

まだ記憶され

酔い、
ふらついて歩き
小さな
ガラス細工の商店を
くぐり、
ふいに
頭上で、
街燈が
照らしたので、
見た

記憶の海



ふれあえる
だけでよかった
と、
女の
情念
繰り返し
陰り
写し取られ
陰惨になり

太陽から
逃げる

写し取られ
室内に残され
凍らされ
保存され
その間に

忘れていく

そのように

…いいや



たいしたことはない、

たいしたことではない

だが、

存在しないわけでもない

そうではない、



そこにあるのではない

ことで

そこにあることになる、


空席

‘<LO=



顔を上げた

寝ていた

違うことを考えていた

用務員室の

机に

うつぶせになって

寝ていた

めがねが少し

ずれてしまった



ドアが

幾度か

たたかれ

あけようとすると

自然に開いた

そこには

空白がいた



水槽から急に

顔を出した気分



空白は

手のひらに

「推測」を乗せ

「推測」は、居心地が悪そうに

幾度も

空白の手から

零れ落ちた

零れ落ちた「推測」は

形がないので

零れ落ちても

床を汚さず

気がつくとまた

空白の

手のひらにいる

「なんですか?」

と問いかけると空白は

空気がうまく吸えなくて

すぅーっつ、っう

という音を上げた

少しだけ、同情したくなった

そこにないことで、浮かび上がったものは、

そこにあるもので

構成されていた

そのこと自体は、何も不思議はなく、

むかし教科書で

読んだとおりだった

なんだ、ただのコラージュか、と思った

東京は、遠すぎます

ここでは愛も希望もありません

ここには親兄弟が、いてません

/故障した オープンリールの 真似事

こんばんは

こんばんは

こちら 滋賀県 国は苦しき

/故障した 人間の 泣き声



交換。



なにはともあれ、

台所には包丁が足りず

財布には

小銭が足りない

膀胱には

液体が足りず

ふぐりには

種が足りない

そこにはないということの

大合唱が

穏当で不憫な

マーチを作って

南川崎市 3−88の 不自然な空き家を

襲撃した

襲撃された先には

男の子が二人いて

ままごとの

途中だったので

男の子たちは、歪んでしまった



おもぐるしい沈黙



かけぬけた、
かけぬけた、

天然の

さびしさがあり、

天然であることを差し引いても

しらじらしい、

口惜しい

ので



理性が生えてきて



昨日の夜のうちに、

夢が虫食いにされていたことを、

やっと知った



自由詩 夢が虫食いにされていた Copyright 真島正人 2011-01-23 02:01:47
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