愚かな農園
木屋 亞万

庭に農園を作ろうと
トマトを植えたのが運の尽き
青さの残る赤い実がごろごろついた
続いて植えたナスもきりがない
次から次から青い実がついて
肥料が足りずに味はいまいち
育ちすぎたキュウリも腐りかけの玉ねぎも
私は絶対に食う
割れたうえに二股になってしまったニンジンも
スコップがささってしまったジャガイモも
泥を落として皮剥いて鍋で煮込めば食べられる

サツマイモをツルまで食った婆さんの
思い出話は笑えない
校庭を畑に変えた時代とは
移り変わって猫の額の
狭苦しい庭に間隔も畝も無視して野菜を植えても
育つことは育つ、実るものは日々実っていく

草をむしらず虫も殺さず
食べられそうな野菜だけを摘み取ってしまう
葉が病もうが枯れてこようが助けることはしない
雨が続いても日照りがひどくても台風が来ても
誰も助けてくれない農園
無論わたしも助けられない
鳥が心配そうに近づいて
イチジクの実をつついて逃げても
困るのは私ではない

庭が家よりも落ち着く場所になって
植物の蒸散する水蒸気の粒が乾いた肌の毛穴に触れて
さらさらとした良い匂いがする
そこに実る野菜も果実も私が食べるために植え始めたのだが
別に私が食べられそうに無かったら
放っておくだけで誰かが食べてくれたり枯れてしまったりする
鳥なのか猫か狸か、虫なのか微生物かは知らないが誰かが食う
人間が庭に植えたものを人間しか食べてはならぬと思っているのは
たぶん人間だけなんじゃないかと思う
植物がそのことを知ったらそんな愚かな人間をどう思うのだろう


自由詩 愚かな農園 Copyright 木屋 亞万 2011-01-21 02:24:37
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