愚かな農園
小川 葉
異常気象の年の冬
街に米が降った
街と言っても
そこはかつて
田んぼだったから
不思議なことではなかった
スコップで
米を側溝に流しながら
街の人々は言う
この降り様だと
追いつきませんね
春には発芽して
雑草が生えますね
かないませんね
雑草ね
老女が笑った
これでも昔はありがたくて
豊作だなんて
言ったものよね
知らないかもしれないわ
きょとんとした
街の若者が
ふたたび降り続ける米を
側溝に流していく
昔はありがたかったとしても
食べもしないものを
放置するわけにはいかない
あらかた片づけた若者は
家に入ると
朝から血を飲み肉を食べ
遅い朝食を済ませる
そんな異常気象の冬の街を
ひとつ高いところから見ている人がいる
最後の皇帝が
れいのやさしい高貴な笑顔で
街を見守っている
分け隔てなく差別のない世界を
祈ってきた皇帝の
命はてるまでこの街に
米は降り続ける
街と言っても
そこはかつて
田んぼだったから
不思議なことではなかった