ひとつ 約束
木立 悟






土のにおいの月がいくつか
夜から朝へと転がってゆく
鏡を造る鏡
暗い水と溝の道


星と星のあいだのむらさき
へだたりと境の腕
羽と羽のあいだに起ち
剣のように
飛沫のように海を割る


外の見えない
窓は薄紅
雪をつないで
冬は冬をわたりゆく


あますところなく灰になり
空は空の上をまたたかせている
約束はひとつ
午後であること


霧と空
言葉は
砕けては戻り
気づかれぬよう気づかれぬよう
左目に二度 指をのせる


白い馬がすぎ
髪に触れた
自分の髪に
白が来ぬように


冬はふりかえり
冬を去る
碧い碧い目
空に残される


胸は泡に 泡に苦しい
折った紙を 破れぬ苦しさ
やがて破る地の
こがねの足跡


息つぎもせず
話しつづけました
骨も肌も頬も目も
見つめ 見つめられました
かたちはかたちを
すぎてゆきました


薄紅が
透明になるときの音
髪に触れた指 ひとつ離して
まぶたのような
空にのせる



























自由詩 ひとつ 約束 Copyright 木立 悟 2011-01-19 21:17:13
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