水底にきえた
乾 加津也

ふっと
水気を含んだ本の両脇
不穏がととのい
遡上がはじまる

奥の詩から女がたちのぼる
ひるがえり
紙面にむんずと顔を押しつけ
ことばのインクの溜め池は
頭頂に浮かぶ
巌流島からながれくる逡巡の黒髪であふれかえる
おぼろに
アナタと
わかる手つきで
喉うえをなぜ
発電所のような眼を
ぱくりと開いた

やめてけろ

ぴょこんと
水底にきえた




かわうそがふふんと
「うそ」を嗅いでいる
うそは身をかわしながら
かわうそを羽交い絞めにしようと背中にまわり込んだそのとき
それまで
かわうそがずっと隠しとおしてきた
かわを見てしまった

やめてけろ

またもや
ちゃぷんと
水底にきえた



自由詩 水底にきえた Copyright 乾 加津也 2011-01-19 15:42:14
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