いそぐひと
恋月 ぴの
ここ数日来の寒波で凍てついた地下鉄の連絡通路に
場違いとも言えそうな親子連れの姿
乳母車を押し歩くお母さんの脇には小さなおんなの子
お母さんの手助けと押すのを手伝っているようにみえるけど
やっぱ乳母車にしがみついているだけなのかな
ついこないだまでは自分の指定席だったのに
快適な乳母車のなかは産まれて間もない弟に占拠されてるし
おねえちゃんなんだから
生きるって、望もうと望まざるとに関わらず
誰かに押しつけられた役柄を演じないといけないんだよね
お母さんの歩調に合わせて歩くのはしんどいし
見知らぬ場所でおいてけぼりは怖すぎる
昔だったら乳のみ子はねんねこで背負って
幼子の手を引くのだろうけど
OLさんみたいなヒールの高いブーツじゃおぶったりはできない
外国製のおしゃれな乳母車に
バーバーリーとかの高そうなカシミアのコート
以前勤めていた職場の同僚にでも会ったりするのかな
お母さんはますます急ぎ足になって
おんなの子は足をもつれさせながら乳母車にしがみついて
ころんで怪我とかしなければよいのだけど
自動改札を抜けると振り返って親子連れの姿を探してみれば
最後の楽園へと通じるエレベーターの扉が閉じた