If winter comes, …
木屋 亞万

雪が降ったので何となく家から出てみた
辺り一面にうっすらと雪が積もり
細い塀の上まで忘れられずに雪が積もっている
いくつかの足跡が切り抜かれた道を歩いていけば
太い縞模様になった道路と出くわす

傘を差して歩いても
風に吹かれた雪が懐へ入り込んでくる
人懐っこい雪の精に肌寒さが助長されて
ダウンジャケットのファスナーを首まで絞める
それでもなお寒い
足元はべしゃべしゃと落ち着かず
時折溶けずに踏み固まる

いつも溶けかけた雪しか降らない街に
雪国のように生き生きとした雪の粒が降っている
何か新しいことが起きている
道行く人も道行く車も今日だけは徐行をして進む
新しい気配で満たされているはずなのに
街は死にかけのような静けさ
あるいはもう死んでしまって
葬式のようにそわそわと静かだ

灰が街に降っているのだとしたら
この身を切るような冷たさも
乾いてひりひりとする頬も
灰に対する不平や怒りに変えられるけれど
雪があまりに美しく華やかに降るので
負の感情を起こす勇気は眠ってしまう

これが今年の最後の雪だとしても
街を歩いているときに
雪が傘の中へ吹き込んでくるたびに
瞬きするたびに、足が雪を踏みたびに
思い出す人がいて
その人が気まぐれな雪のように
ふっと現われて
冷たい向かい風に乗って
そっと僕の胸にもたれてきたなら
一体どうしようか、などと馬鹿なことを考えて

靴の頭に雪を乗せながらとぼとぼと歩いていく
鼻と耳が冷えていたはずなのに
耳だけはなぜか赤くなってきて
白い雪を葉にのせて別の生き物になった夾竹桃を
立ち止まって眺めていた

僕は今でもあの人のことが好きなのかもしれない
小賢しい臆病者よりも勇気のある馬鹿の方がよかった
将来とか未来とか今後とか、先のことばかり気にして
結局今から逃げてしまっていたのだと今更気づいても
あの時の今はもう遠い過去のことになってしまった

雪の日に出かけようと思うなら、
めったに降らない雪が積もる街を眺めたいのなら
雪が溶けてしまう前に部屋から出て外を歩かなければならない
たとえどれだけ寒くても、すこぶる体調が悪くても
先のことを考えて無難な方ばかり選んでいたら
見えない気色がいくつもある
そんな当たり前のことに今になって気づいたのだ
辺りが温かくなるのを待っている男は雪を知らぬまま死んでいくのだ


自由詩 If winter comes, … Copyright 木屋 亞万 2011-01-17 02:11:03
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