紫色の夜
吉岡ペペロ
オーストラリアに遊びに行っていた恋人に会いに大阪にいった。
そこは他人事のように寒かった。紫色の夜だった。
ストックホルム?大連?どこかでこんないろの夜を見た。冬だった?夏?春か?
店は料亭どくとくの魚の酸っぱくて湿ったなつかしい匂いがした。
ひとつひとつの料理を鑑賞しあい、冗談をとばしあいながら楽しく食べた。
めいぶつの豆乳鍋のころにはふたりは並んで食べていた。
デジカメを見ながら一緒にオーストラリアを思い出していた。
そこは行ったことのない所だった。
和室の個室からも紫色の夜が覗いていた。
こんやふたりで過ごして明日は大阪で仕事をする。
恋人はいつもとおんなじ華やかさでとなりにいる。
<あたし、一年と半年くらい、オーストラリアいってこようかなあ>
こういうとき気の利いた言葉が出て来ない。
恋人の感情から生み出される声をすべて聴いてやることは、別れてしまうよりは苦痛ではなかった。いや、むしろそれでも楽しいくらいだった。
生姜のシャーベットを食べながら紫色のそとを見た。
ストックホルム、大連、ダニーデン、シアトル、イチョン、
なぜそんなことを探しているのだろう。
なつかしい夢をくりかえし見ているようだ。
恋人があまえてくるのを遠いこころで構いながら。