俺は夜明けを見て喜んだりしない
ホロウ・シカエルボク





首すじに張りつくものが本音さ
俺はいつでもそのことを知ってるさ
首すじに張りつくものが本音さ
うわべでどんな言葉をもっともらしく並べていたって


絶望の塊のような風が
路面の温度を下げて行く
絶望の音楽に身を任せて
ままならないヒーターの灯りに似たような綴りを重ねてる


22時過ぎ
不完全燃焼で横たわる
昨日ほど言葉を持たない俺だよ
君にはこんな消耗のことはどんなに話したところで決して理解出来やしないだろう


海に行ったら
夜明けを見て喜んでるやつがいる
岩肌の影まで歩いて行くと
犯されて泣いている女がいる
俺は女の手を取って
一番近い産婦人科に連れて行く
どんな事情があるかは判らんが
病気にだけはならないようにきちんとケアしておきなさい


山に登ったら
夜明けを見て喜んでるやつがいる
林の中に足を踏み入れると
首を吊って死んでいる男がいる
携帯の電波が届くところに出て
警察に電話をする
警察を案内してたくさんの質問に答える
めんどくさくてもやらなくちゃいけないことというのは確かにある
家に帰ったらしつこいくらいに身体だって洗わなくちゃいけない


巨大なアトラクション・パークに行くと
二十年前にそこでさらわれた子供をまだ探してる母親がいる
時代遅れのブラウスとスカートを着て
色を失くした髪で失った家庭を夢見ている
昔ほど叫ぶことはしなくなった
そんなことしてると追い出されるってこともあるからだけど
ぶん殴って目を覚ませって言ってあげようとしたけど
それをするには遅すぎるんだってことに気付いてなにも見なかったことにした
夢から覚めたって同じ喪失が
彼女にはまとわりつくだけだ


街に行ったらそこら中で若者たちがペッティングをしていた
それが彼らなりのプラトニックということだった
ドラマティックには違いなかった
挿入歌だって何度も挿入されていた
いろいろな種類の携帯プレイヤーから
お粗末な操作で何度も挿入されていた
それが彼らなりのプラトニックということだった
俺は金色の髪をした若者の腰に手を添えて
もっとこんなふうに動かせばいいんだとレクチャーしてやった
チョマジイイカンジッスと言いながら若者は
身体の下のどす黒いプラトニックと合成保存料で出来た天国へと昇天した
量は大したものだったが色は大変薄かった


首すじに張りつくものが本音さ
家に帰ったら空っぽだった
インスタント・コーヒーを沸かして
地下室を聴きながらゆっくりと飲みほした
微かに変な臭いがするなと思ったらシャツの裾に
犯された女の涙と首吊りの男の体液と若者の薄い精液が三層の染みを作っていた
洗濯機に投げ込んで洗剤と柔軟剤と重層を入れて洗った
全自動という誇らしげな洗濯機
洗ってくれればどんな仕組みでも構わない
それがほんとに洗えているかどうかなんて
どうせ俺には確かめるすべなんかない
突然誰かが俺の両腕に手を添えて洗濯機に導き
こうやるんだと言いながら激しくグラインドさせた
洗濯機は妙な音を立てながらやけに明るい火花を出してショートし
俺は目が眩んでその場に立ちすくんだ
そしてチョマジデシャレニナンネエと
どこかで聞いた調子でボソボソとつぶやいた




俺は夜明けを見て喜んだりしない
だけどそんなやつらの気持ちだって少しぐらいは理解しているんだ






自由詩 俺は夜明けを見て喜んだりしない Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-01-15 22:49:32
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