冬のオフィーリア
石瀬琳々

雪が降ってくるのです
音もなく 羽毛のように
やわらかく 花片のように
雪が降ってくるのです
見えない雪がすべてを包んで
私を埋めてゆく 冬の森


ごらんなさい
遠くから蹄が駆けてきて
立ち止まる影がある ふいに
木間から私を覗う冬の瞳よ
振り向くと誰もいない
ただ 雪だけが れいれいと


 ねえ あなた
 胸がくるしいの
 思いだけが泡のように
 立ちのぼる 立ちのぼって
 空の果てから落ちてくる
 あれは雪、雪です


 (何も知らない
  知ってはならないのです)


指がのびてきて頬に触れる
なぜそんなにやさしい手つきで
私は息もできず水に溺れ
抱き合ってくちづける冬の川
永遠は流れゆく 私のなかへ
私の口腔をつき破り


 ねえ あなた あなた
 木霊する、あなた
 見えない雪を花のように飾る
 このたえまないもの


 (未来の夢を見る
  あるいは過去へ遡るように)


雪が降ってくるのです
音もなく 羽毛のように
やわらかく 花片のように
雪が降ってくるのです




自由詩 冬のオフィーリア Copyright 石瀬琳々 2011-01-13 13:51:18
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