雪を待つ歌
橘あまね

ひえきった背骨から、ひとつひとつ
きわめてあいまいに
呼吸の輪郭をかたちづくっていく
雪が降るかもしれなかった
駅前広場で、
ぼくは行き先を忘れたふりをしていた
夕飯に何を食べようか決めていなかったので
まっすぐ帰りたくなかった

傘をいつでも置き忘れてきてしまう
職場に3本
友人宅に合計4本
モトカノ宅の合計2本は
もう捨てられてしまったと思う
ベランダで朽ちていった透明のビニール
 
空腹がきちきち、と痛んだ
下ばかりみて歩くから
よけいに痛むのだ
上を向いてみても月がなかったので
また下を見た
吸いがらに交じって
5円玉がひとつ落ちていた
拾わなかった

寒い夜には
マフラーと手袋を
奪われてしまうことを恐れている
きょろきょろと辺りを
よそ見ばかりして
おなじく凍えた人々に肩をぶつけては
謝る
けんかになったら
マフラーと手袋をとられてしまうから
謝りすぎるくらいに謝る

お酒は飲まないしタバコもやめた
次は何をやめなければいけないか
何をやめたらゆるしてもらえるか
雪のかけらの一つ目が落ちてきたとき
決まるとよいと思った




自由詩 雪を待つ歌 Copyright 橘あまね 2011-01-10 21:00:05
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