夜をなぞる歌
橘あまね
空の頂に月のない夜
まなざしは
同じようにはやってこない
待ちぼうけの子どもたちが
眠ったふりをして
息をこらすように
取り巻いて包んで
進行する世界に
オクターブごとに反響する
数限りない感情による
色違いの変奏
いちばん大きい暦に
正しく沿った方法で
ほんとうのことばを探すために
ほんとうのことばを
失くしてしまったから
新しく生まれた空白に
おおげさな名前をつけて飾った
神さまをまねたレプリカの
神さまにもっとも遠い一部分が
中心、と呼ばれたせいで
風にふれて泣く
ちいちい、と泣く
どこからともなく
どこへともなく
おろかしさとむさぼりを連ねて
怒り、ねたみ、
傷つけるくせに
祈るのをやめないのは
なぜだろう?
だれも教えてくれなかったので
見捨てないでください、
放っておかないでください、と
こいねがう歌のすべてに
耳をかたむけて
抱擁のふりをする
偽り
禍々しい星が
冷たくたぎるように
すがるものたちを
切りさいて 引きちぎって
憎み、狂い、もだえる
真っ暗なわずらいが
もっと暗いわずらいに
飲み込まれつづける夢をみる
いっさいの流れに
ありのまま
ひとしく身をまかせることだけを
もとめるはずだったのに
ぼくは遠ざかってしまった
遠ざかってしまった
ちっぽけな人形です
光がおとずれるまで
痛みを紡ぎ
悲しみを織ることを
ゆるしてください