天の鏡に映った暗鬱な旅人
石川敬大





 まもるもののない空から
 かれの顔や肩に雨がおちてきて
 夕ぐれが
 せまっていた

 きょう
 という日は
 くぐりぬけねばならない試練のような
 分厚い曇天の一日だった

 かれが両腕をひろげて防いでいたもの
 抱きとろうとしていたもの
 それは
 だれがどう挑んでも
 とめられない勢いの、つよくて激しいものだけれど
 どんな顔をして待つかは
 じつは大事な問題だったりする

     *

 かれの顔に雨が落ちてきた
 江戸の驟雨だった
 いや、女の涙だった
 かれは白いベッドに横たわり
 虫の息だった
 かれの顔をのぞきこんでいた女は願っていたのだ
 泣きながら
 祈っていたのだ

 ながい夢をみていた
 かれは
 江戸にもどりたいとおもった

 きょう
 という日は
 くぐりぬけねばならない試練のような
 分厚い曇天の一日だった

 まもるもののない空から
 かれの顔や肩に雨がおちてきて
 夕ぐれが
 せまっていた







自由詩 天の鏡に映った暗鬱な旅人 Copyright 石川敬大 2011-01-09 17:30:41
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