「すばらしいうた」
ベンジャミン
すばらしいうたをうたおう
すばらしさの意味など考えず
すばらしさの響きを信じるままに
あなたの中のすばらしいうたをうたおう
たとえば隣にいる誰かが
ふっと笑顔になるくらいの
自分ですばらしいと思えなくてもいい
誰かに認めてもらうためのものではない
基準やきまりにしばられることのない
そんなうたをうたおう
何かを手のひらの中であたためるような気持ち
見えるはずもないものがほんのり赤く色づくような
そして静かに浮かんでゆらめいてただよって
ふわっとしたままを大切に感じられるような声や言葉で
誰かに褒めてもらうためでもなく
誰かの涙をさそうようなせつなさもいらない
たとえば寒風にすすり泣く
名前も知らない野の草が少しばかり早く
あたたかな春を予感できるような
そんなうたをうたおう
※
すばらしいうたをうたおう
すばらしいこころでうたおう
何かをしぼりだすような苦しみはいらない
見わたせば見えるような喜怒哀楽を今は忘れて
あなたを包んでいるぬくもりを感じてみよう
きれいなものやうつくしいものでなくていい
誰もが持っていて誰もがふだん気づかずにいる
一生懸命になるほど遠ざかってしまいそうなもの
夢の中で手をのばしてもつかめないもどかしさを
ただ無心で追いかけるような気持ちで
そんなうたをうたおう
すばらしいうたをうたってほしい
すばらしさはたしかにあなたの中にあって
それはすばらしいと感じることができるこころだと
あなたはきっと知っているだろうから
世の中に冷たい風が吹き荒れて
誰かが誰かを悲しませたり苦しめたり
誰かの不幸をあおるような知らせが鳴り響いても
すばらしいうたで打ち消そう
「はい これがすばらしいうたです」なんて
そんなふうに示せるものではないから
すばらしいうたは難しく感じるかもしれません
けれどすばらしいうたはみんなが持っていて
たとえ誰かが誰かのうたをすばらしくないと思っても
誰かが誰かのうたをきいてすばらしければいいのです
たとえば見えない気持ちを言葉であらわすように
すばらしさはすばらしいという言葉の枠の中にあるのではなく
そのとき気づくことができるかどうかだから
そんな気持ちでうたってほしい
※
すばらしいうたはそこにあります
すぐそばにいつもあります
たとえばこんなに寒い冬のさなかでも
小さな陽だまりで猫が寝ころんでいるところや
木の枝に残った枯葉が力尽きてひらりとするのを
悲しいと見るのではなく次の季節を呼ぶ踊りのように見るところ
すばらしいうたはすばらしさを見せつけることなく
まるで当たり前の中にそっとひそんでいるのです
それをそのままうたうことをすばらしいとしないで
いったい何をすばらしいとすればいいのでしょうか
きれいな言葉で飾ることを必要としない
さまざまな知識や経験を欲しない
そんなうたをうたおう
世界の片隅で生まれた小さな声が集まって
やがて大きなうねりのように伝わって
そして99パーセントの他の気持ちの中で
1パーセントの幸せを感じて
99人のひとが要らないと言ったものを
1人のひとが何よりも望むような
そんなうたをうたおう
そしてそのうたが
あなたをすばらしくすることを
わたしは信じているのです