足速な夜
きーろ

冬の夜は足が速い
電車に揺られ、書店で悩み、駅で煙草に火をつけている間に間に、
追いつかれてしまった

液晶画面はひたすらに暗い
投げかけた言葉の道しるべは、ここしかなかろうに、
ちぎれて帰ってこれない気さえする

愛しかった人の字を思い出そうとして
愛しかった人の字が思い出せず
愛しかった人の字を知らなかったことを知り
愛しかった人の字を知らぬまま過去形は押し付けられた

一人称の足取りは軽くなり得ない
認めたくはないが、この世界でしか私は生きれないのであり、
それをとっくに受け入れたのはいつだったことか

エゴラッピンが好きだったわけではない
だからそのタワーレコードの袋は、今やただの袋であり、
数え切れない100円ライターの収納に使われている

冬の夜は足が速い
暗い液晶画面の奥、二度と浮き上がらないゴシック体たちは、
愛しかった人の字の影を抱いたまま眠っている


自由詩 足速な夜 Copyright きーろ 2011-01-07 01:57:26
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