骨   斎場
相差 遠波

骨とそこに遺すもの
あなたの生きた証
長い長い踏破の記憶
白く焼けてなお美しい曲線と
関節の摩擦の痕
泥の河を渡り
砂埃の轍を踏み
飯盒番の友を出来上がりの声と共に失い

骨とそこに遺すもの
あなたの生きた証
長い長い余生の記憶
黒く焼けた某球団の小冊子と
治療された銀歯
西の海を渡り
灰の街角を踏み
戻って続く大工の日々で取り戻した家

骨とそこに遺すもの
あなたの生きた証

今なら解ります
ぶどう農家の友を家族と一緒に訪ねた時に
そしてその友がすでに亡くなっていた時の
あの張り詰めた無表情の意味
遺されていく者の寂しさ
同じ時を歩んだ者が消えていく
自分の記録のあやふやさが増していく
恐れも

骨とそこに遺すもの
あなたの生きた証
あなたは乾いた小さな骨になって
大小の骨壷に
あなたの遺した者たちの手で収められる

骨とそこに遺すもの
あれから随分と時がたちます
けれどあなたはまだ私たちの中に居る
この体質や
この習慣や
この骨の遺伝子の中に
なによりも思い出の中に

骨とそこに遺すもの
私が覚えている限り
あなたの記録は失われないでしょう

骨と そこに遺るもの


自由詩 骨   斎場 Copyright 相差 遠波 2011-01-06 10:32:52
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