箱根駅伝
服部 剛
先頭の、早稲田のランナーが
歯を喰いしばって近づいたので
歩道で妻と旗ふる僕は
「わせだぁ〜・・・!」と、叫ぶ。
二番手の、東洋大のランナーが
汗を滲ませ走っていたので
歩道で妻と旗ふる僕は
「とうよう〜・・・!」と、叫ぶ。
三番手の、駒沢大のランナーが
あきらめない瞳に炎を燃やしているので
僕はいてもたってもいられずに
おもむろにコートを脱いで
「りえこ・・・これを持ってておくれ」と言い残し
遠のくランナーの背中を追いかけて
歩道をいきなり、走り出す。
自らの恥ずかしさを振り切るように、走る僕を
「あ、走ってる」と振り向く少年や
「お、がんばれ」と旗ふるおじさんや
ランナーの後ろを走る同伴車の拡声器から
「一・二・一・二!」と励ます声に、背中を押され。
次のバス停まで走らぬ内に
膝の力が抜けて来たが
どんどん遠のいてゆくランナーの後ろ姿は
かけがえのない友の姿や
愛しい妻の姿や
頼りない僕自身の姿にも視え・・・
歩道に立ち止まった僕は
右手に持った旗を揚げ
ランナーの小さい背中へ
全身をふり絞り
「いけぇーーー・・・!!」と、叫んだ。
歩道を戻ってにこやかに待つ妻と
最後のランナーを見送ってから
近所の神社の鳥居をくぐり
今年一年の完走を誓い
両手を、あわせた。