どんなところへもいける人
真島正人



あなたはそこに座り込んでいる
水のような
やわらかくどろっとしたものの真下に
あなたの頭の上では
戦闘機が飛行し
小さな爆弾を
投下していく
あなたの歌う歌が
万人の心を捉え
それがゆえに
過ちは過ちを認識した
だけど愛は
最小の単位のほうにしか寄り添わないので
あなたは家庭以下の
尺度にいつも折り曲げられてしまう

あなたはそこに座り込んでいる
世界の音楽が
すべて消えてなくなる場所に
静寂は神の使わした印
いくつもの入道雲は
思い出を消化しかねて
浮かんでいる
浮かない顔で
田舎のあぜ道を駆け上り
その先に稲穂がたなびいている
あなたが行く場所は
そこですらない
でもあなたは
どんなところへも行ける

ひたすらに空気がつめたくなって
心の隅っこには
硬い氷が
存在していて
終わってしまったね、
暖かい
会話たちよ
言葉は不自由な存在なので
それがある場所から
移動することができない

からからと
積荷は
手押し車で押されて消えていく
車輪の音は
言葉から
距離を置いている
言葉でない音は
どこまで届くのか
夜道のつむじ風は
誰に対抗できるのか
どこへもいけるからだがあるのに
形の無い音を
携えてゆけないのは
なぜなのか

あなたはそこに座り込んでいる
ピアノの音が
聞こえる夜更けに
空の遠くから
爆弾が降ってきて
不意に手足がちぎれたりする場所のすぐ真下に
海の底では
産卵が可能だけど
そんなことをするための
わかめすらない
終わってしまったね、
暖かい
会話たちよ
言葉は不自由な存在なので
それがある場所から
移動することができない



自由詩 どんなところへもいける人 Copyright 真島正人 2011-01-05 14:28:22
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