溺死のミュージック、TOTOで葬送
ホロウ・シカエルボク
死、の音木霊する春来る窓辺、おおお
枯れた枝にまといつくいつぞやの暴落
嫌な臭いの涎を拭った爪の先が太陽を求めて喘いでいる、曇天
鼠色の羽持つ鳥達が陰鬱な旋律を調律している、暗い、暗い日曜日
この朝が俺から蝕むものを焼けただれた表皮から探し出そうとするような、逡巡
壁の染みが俺の目を盗んで少しずつ移動しているみたいに思える、浅い眠りの、アフター
霞んだ視界は何のためだ、定着する朦朧はどんなものを見るまいとしたのか、あるいは
どんなものだけを、見ようとしていたのか?
時計はまだ針を進めない、秒針は5と6の間でスタンバイし続けている、あるいはそれはこの俺へのひとつの暗示かもしれないが
電池を替えたりネジを巻いたり、油を差したりすることでそいつが変わることはない
余計な連中はみんな阿呆みたいな顔をしていてだからこそ幸せなのだと言って
俺は知らない、そんなやつらに関わったってロクなことはない
俺の表皮を焼いたのは、もしかしたらこいつら、かもしれ、ない
だけどそんなことはどうだって良い、そんな関わりを読み解いたところで中にはなんにも隠れてはいない
窓を開けると冷たい風に舞い上がる埃達、空中に瞬きの間の五線譜を描いて、散る、散る
それもやはりマイナー・コードをはぐれることはなく、そしてそのことが俺を落ち着かせる
明るい未来や確かな愛を歌っているよりは
遠くの山の頂に薄いグレイの雪が縛りつけられている、長く積もったいつかの雪はそのまま悲しみのようだって、記憶の中でゆっくりと発音しているのはどこの誰?
確かだった名前さえ思い出せないくらい年を取ることなんか珍しいことでもない
底無し沼から拾いあげたフレーズ達はすでに溺死のあとで、だけど腐乱の奥底から聞き覚えのない脈動が聞こえていて、俺は何度も配列をやり直す、やり直す、やり直す、追いつめられた神のような心情で
目蓋についた小さな裂傷が語るのは不適切な睡眠とそれに伴う眼球の不具合、見た、見た、見た、見た、見ずとも構わない様々な様相を
唇に残った昨夜の食事の豹変した雰囲気、昨日は俺に成りえたものが今朝には俺を苛んでくる、景色を変えなければならない、何か新しいものを唇に運ばなくては
俺は単純な食事をする、そしてそれらが胃袋に降りてゆくのをゆっくりと感知する、人の身体、人の胃袋はいったい何を溶かす、いくつもの覆いの中でどんなシステムを施工している?俺はそれが知りたい、解剖学やなんかとは違うところで
俺は、そうだ、それからラジオをつけて、食ったものが糞に変わるまでずっと聞いていた、いくつものポップ・ミュージックが適切なタイムでフェード・インしてはアウトしていった、ポップ・ミュージック!そいつはいつからファースト・フードのフライド・ポテトみたいなものに成り下がったのか?それともそれは昔からずっとそういうものだったのか?それは個々の価値観によって輝いたり汚れたりしていく、していくだけのものなのか?俺はトイレットに入る、そしていくつかの小さな固まりを無理矢理ひねり出す、かつては俺であったもの達がTOTOのクリーム色の便器の中で渦を巻きながら果てしない下水管に流れ落ちてゆく、俺は敬礼をして彼等を見送った、TOTOで葬送、TOTOで葬送、一日はそんな具合で色を変えていった
眠るには魔法が必要になる