東京スカイツリー(仮作)
rabbitfighter

もしもこの海が真っ二つに割れて
そこに一本の長い道ができたら
僕たちはTOYOTAのランドクルーザーにのって出かけよう
それは奇跡のひとつに数えられるだろう
僕たちの走った海の底は
ひとつの奇跡に数えられるだろう
栄光への逃走
未来への逸脱
だけどこの道は君が思うよりも険しいだろう
丸太をくり抜いただけのカヌーの航海のほうが楽かもしれない
降り積もるワインの澱のような
プランクトンの屍骸にタイヤはぬかるんで
底知れぬ海峡を渡るために
橋を架ける
熱水噴射孔はなおも噴煙を噴き上げ
僕たちの行く道を塞ぐだろう
あるいは古代から現代まで続くわれわれの営みの証拠としての
ガレー船や潜水艦の残骸が横たわり
二度と浮かび上がることのない産業廃棄物や核廃棄物が
忘れ去られた文明の遺構に鎮座している
それは美しくて悲しい光景
だけど恐れずに僕たちは進もう
水深は2000メートルを超えただろうか
深まるたびに濃い青が地層のようなグラデーションを描き
僕たちの両脇には漆黒の深海
食べるものも飲むものも見つからない
だけどそれでも僕たちは進もう
もうじきカバンの中のチョコレートを僕は思い出すだろう
二人でそれを半分に分けよう
でも何故だろう
美しいと感じるものほどかなしい
君が美しいのは別に
悲しいからってわけじゃないのに
そうだよね
道はなだらかに上り始め
やがてぬかるんだ地面は砂地に変わり
ついに裂けた海を行く僕たちの旅は
アスファルトで舗装された道を行くものになるだろう
この道もかつては海の底だった
数万年前には海の底だった
そして埋め立てられたこの土地を
僕たちは臨海副都心と呼び
悲しくも美しくもない光景に僕達は目を走らせる
喧騒の中に猥雑さが無く
気温の変化にしか季節が無い
きっと人柱を立て忘れたんだ
東京
美しい人たちが通りを歩いている
大きなケヤキ並木の下を僕達は行く
かつて江戸と呼ばれていた町の名残り
打ち寄せる波の音が耳の中で何度もこだまする
僕たちは海を引き裂いてやってきた
それは奇跡のひとつに数えられるような旅だった
スカイツリー
ただまっすぐに伸びてゆくその木に
僕は仮想の枝を伸ばす
あの街路樹のケヤキのような枝がいい
どこまでも続くフラクタル構造は
鉄骨とボルトのパターンを繰り返す
誰も祈らないから
何も望まないから
スカイツリーは
悲しみを知らないまま育ち、朽ちてゆく
僕たちの新しいランドマーク
仮想の枝に仮想の葉が生い茂り
冬になるとその葉は散って
冷たい風に運ばれていくだろう
駐車場にきちんとランドクルーザーを止めて
同じように奇跡の道のりを旅してきた人たちとともに
まぶしさに目を細めながら仰ぎ見る


自由詩 東京スカイツリー(仮作) Copyright rabbitfighter 2011-01-04 12:47:53
notebook Home 戻る