ピーターはラビットにはなれない
nonya
草食系だと
もてはやされたり
馬鹿にされたり
その度に
膨らんで青空を目指したり
萎んで地面に貼りついたり
そんな僕は
サヨナラも言わずに
強制終了された恋を
いつまでも着古したまま
安い焼肉屋の片隅で
サンチュをもそもそと食んでいる
葉肉葉葉 葉葉肉葉 葉葉葉肉
葉葉葉葉 葉葉葉葉 葉葉葉葉
僕の目の前で屈託なく笑う
とても肉食系の友人は
いつか僕を喰らってやろうと
笑ってないほうの目から
よだれを垂らしている
そもそも
消化能力が極めて低く
臭いに敏感すぎる僕を
焼肉屋に誘う友人に
脂ぎった悪意を感じつつも
もそもそ
言い返したい言葉を
上唇の下に貯め込んだまま
僕は人より長い前歯を隠しつつ
もぞもぞ薄笑いを滲ませる
そもそも
そんな仕草ばかりしているから
人からピーターなんて
呼ばれてしまうんだけれど
もしかしたら耳も
人より長いのかもしれない
上機嫌な友人は
ハラミで頬っぺたを孕ませながら
僕をいじくろうとする
<ねえピーターってさあ>
(微笑んだままうんざりする)
<それってピーターらしいよなあ>
(同意するふりして血圧を上げる)
<ピーターなんだからしょうがないって>
頭の中で何かがぴょーんと弾けた
僕は
不器用な前脚を丸めて
不健康な後脚を縮めて
友人の後退しかけた額めがけて
思いっきり跳躍した
僕は
陽気な血飛沫をあげる友人の
能天気な額を踏切り板にして
ネザーランドの草原の真っ只中に
ものの見事に着地した
ように思えたのだが
相変わらず
目の前の友人は
ユッケビビンパを愉快そうにかき混ぜながら
葉葉葉葉 葉葉葉葉 葉葉葉葉
相変わらず
ピーターの僕は
サンチュをもそもそもそもそと食んでいる
いつまで経っても
僕は
本物のウサギにはなれないらしい