正月はどこか饂飩に似ている
木屋 亞万

年が明けたあさ
目を覚ますと目の前に
水のたっぷり染み込んだぞうきんが
そばの油揚げみたいに旨そうな姿で置いてある

これは床でも拭けということかと
年末の大掃除のようにぞうきんを手にとり
鳥居のしめ繩のようにねじり上げる
濡れているときは餅のように白かったけれど
絞るとすこし布のくたびれがボロボロと手に触れる

体温の低い身体を包み込む
生暖かい布団を天ぷらの海老のように抜け出して
裸足のまま板の廊下を駆けていく
腰が斜め下にぐっと伸びて
冷えたかかとがピンと張る

足の冷えを温めるべく火燵に
下半身をほうり込みぞうきんを仕掛けた主に
ぞうきんを手渡しながら新年の挨拶をする

あけましておめでとうございます
昨年中はお世話になりました
今年も何卒よろしくお願い申し上げます

少しふざけて堅苦しく挨拶したつもりなのに
妙に熱が入ってしまって恥ずかしくなり
何となくいたたまれなくなって
ぽてぽてと立ち上がると
酔っ払ったひょっとこのような表情で
洗面所へ向かいしゃばしゃばとぞうきんを洗う
指の先が冬の冷水で赤くなって感覚がなくなっていく
ぞうきんを絞って日のあたるところヘかけると
忍者のようなつま先歩きで火燵へと戻る

キンキンに冷えた手で君の頬をサンドイッチすれば
いつもの高い笑い声と反撃を誓う悪戯者の目
初笑いとともに新年がまた進んでいく


自由詩 正月はどこか饂飩に似ている Copyright 木屋 亞万 2011-01-02 23:56:36
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