経血と牛乳
ayano
蛇口を捻ると淡いピンクの液体が出てきた。段々とそれは赤くなっていく。血液だと思う。まるで女の子の生理みたいだ。蛇口とは水道水などの液体を運ぶ管の出口部分、あるいはその部分の器具のことを指す。そうであるが液体なら何でもよいのだ恐らく多分きっと。蛇口の中に人差し指を突っ込んでみた。くちくちと関節を飲み込んで封をすることに成功したみたいである。指に絡み付く毒々しい感触を伴い、手には少しずつ赤い液体が流れ。ゆっくり抜き刺しを始めれば着々と手は赤にそまり、徐々に蛇口をも汚していく。ぼたぼたとはしたなく垂れ続けるそれを止めるべく、普通なら口が下向きの蛇口を上向きに捻った。捻れた蛇口にもう一度指を入れ、抜くと(歪んだ首だと液体は出にくいものらしかった)圧力で無理矢理吐き出された液体は噴水のように流れていた。蛇口を反時計回りにぐるんと捻り流れを止めた。赤子の手を捻るくらい容易なものだった。
冷蔵庫から安くてまずい牛乳を取り出し、パックごと一口飲んでやっぱりおいしくないことを確認した。上向きの蛇口にも飲ませた。自ら出した液体色に染まる蛇口はぴくんと一瞬動いたような気もしたが、構わず注いだ。すこし口から零してしまうこともあった。全部飲み込んでしまえと言わんばかりに牛乳パックが空になるまで注ぎ続けた。
そこで蛇口様子見も兼ね腹ごしらえにカップラーメンを食った。ヤカンの中にすでに水は入っていたので火をつけ換気扇をつけ沸騰するまで、カップラーメンの準備をしていた。また、ぴくんと蛇口が動いたような気がした。いやらしい。弱々しいカップにお湯を注ぐときは無心だった。箸を持ってリビングへ行って数分を自ら体内で数えラーメンを食べた。やはりこれもあまり美味しくない。そういえば片手は真っ赤に染まったままだった。だんだん赤が固まって黒茶になっていくのが見て取れた。
キッチンに戻ると蛇口が僅かながら震えていた。かくかくかくかく。指を突っ込むと手が紅白になった。此処で生理中の女というのはいくら精液をぶち込んでも孕まないと誰かが言っていたことを思い出す。失態。
蛇口を元の状態に戻してやった。その真下にコップを置いた。口が下を向いた途端白を吐き出し赤もぼたぼた垂れ続けた。蛇口は捻っていない。コップには液体が貯まる。一口飲んでみたがあまり美味しいものではなかった。塩気があった気がする。次はコップのなかの液体を牛乳代わりに入れてやろうと思う。液体の出が少なくなったところで、ぐいと蛇口を捻る。すると水が出た。最初は透明のとろとろとした液であったが段々と水になっていくので、汚れた片手を洗った。天気が快晴だからか水は少しだけ温かさを帯びていた。