ぼくの生まれた日
オイタル
ぼくが生まれた日
今年のように
雪が物憂く降っていた
崩れかけた柱の根
巻き上げる夢の枝先
曇った窓に頬杖つくと
埋もれる氷の柱が
幾本も並んでいた
ぼくは泣かなかったけれど
指先は届かなかった
しばらくしてぼくは
椅子に置かれる
もたれかかる薄闇に
少しずつ伸びる時計の振子
廊下の折り返しに続く
黒い旅館のロビーの陰で
うす若い父の背広と
背を向けた母の襟足が
暗いガラス窓に
くすりと映る
柱時計が三十二時を打ち
ぼくはようやく
生まれようとする
記憶されるものから
すべてを
記憶するものとして