暖かすぎる不特定多数の個室から
ホロウ・シカエルボク



古い恐怖を貪る獣の鋭利に過ぎる牙の後、幾つかの肉の階層を突き破り血管に達する
悲鳴は秋の虹の七色で、ほうら、憧れの世界まで届きそうだよ
睡眠不足で半ば閉じた目の玉が見つめるものは
どことなく子供のころに、見つめてたものとよく似てた
サンタクロースと神様を、同じ頻度で愛してたあのころの12月
プレゼントと両親が余りリンクしなかったのはどうしてなんだろう
浮かれた世間の酔いに当てられ身体が余計な熱を持つ、エア・コントロールが適切じゃない
血管の中に混じった不純物が、不特定多数な個室の中で歪んだ自我を凝固させ
存在の悲しみにねじ曲がるまなこはまるで冬の鼠の死体のようだ
中央公園の着飾った女たちはゴスペルを歌っていた、あれはどのくらい前の出来事だ?
思い出せる記憶になんかまるで意味はなかった、それはいつでも確かにそうだった
土の下で、根を張り広がる植物のような水面下の記憶だけが意識を創り続けている
分かっているのかいないのか、何度も続く同じ世界だ
人生と同じだけの12月がいま、俺の背中で赤子のように泣いている、ぐずっている
早くから雪が降る、早くから雪が降るんだ、気象情報は夜にも積もると断言している、幾つかの注意報がもうすぐ年号を変える世界にささやかな期待と緊張を植えつける
凍える
強い風が吹いていた、俺は大きな河に掛かる橋を越えて
不特定多数な個室の中で詩を読んでいる、暖か過ぎるエア・コントローラー、穏やか過ぎるBGM
無料のドリンクを何度も飲み干して何度も小便に行く
一過性の人々のような留まらぬ関係、百万分の一の顕微鏡でも凹凸を確認出来ない便器の中にその関係は帰結していく
水を流せばなかったことに出来そうなことばかりさ
そんなものを数えてばかりいるとこんなものが生まれてくる、意味なんか求めちゃいけない…雨の後の側溝の泥水みたいなものさ
ねえ、絶対に噛み合わない場所で言い訳するのが近頃じゃ流行っているの?
火種の処理に慎重な喧嘩ばかりだね
慎重になりすぎるのはよしなよ、誰の喧嘩も俺は買ったりしないから
ハッタリで生きられる時代なんか産道のぬくもりを知ったときに終わったんだ
規則的に失われた穴ぼこの中に変わりに入ってきたものは何なのか
そんなもののリストを作ってみたところで何かの役に立つわけじゃないさ
俺は無作為に蠢きながら幾つかの地点にマーキングをして…
ひととき落ち着いた地点でいつもと同じ新しいことを始めるのさ
凝固した血管がカフェインでほぐれてくるころ少しは分かりやすくなるだろう
サンタクロースも神様もいつごろからか自分自身でやらなきゃいけなくなった
で、そうさ
ご神託を仕上げなくちゃいけなくてこのところは必死なのさ
また会いたいね
また会えるよね
不慮のなんかでくたばったりしない限り
くだらねえ、暦の上でのことだけど
今日だけは
また来年って言って別れるんだ



それじゃあね
明日からは
ましな笑顔で会えますように




自由詩 暖かすぎる不特定多数の個室から Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-12-31 12:44:12
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