雪の降る夜
砂木

寮生活をしていた頃の事
玄関に来てくれと伝言がきた
同じ部屋の同期入社の子が大変だという
数名のいつものメンバーが見に行くと

大きな台車に 彼女がぐったり横になっている
歩けずに 意識もあやしい
あきらかに飲みすぎだ
深夜 門限を過ぎて女子寮は
慌しい雰囲気につつまれた

なんでこんなに飲んだのよ
ただ荷物のように運ばれる彼女に代わり
一緒にいた友人が説明するには

北の方の男性と喧嘩になってね
どっちの故郷がいいかって
しまいには ウイスキーのストレートいっき飲みで
決着をつけようと言って 飲んで勝っちゃったんだ 
飲み干しちゃったんだよ

南国の女性である
酔っ払い同士 良いも悪いもないけれど
勝ったぞ とちょっとつぶやく彼女の
遠い故郷が 何をしてくれるわけでもなく

寮の部屋でなんとか布団に寝かせて
北国出身の私なども そばについて
大の男が女の子相手に何やってるのよ
年上の男らしく いっき飲みなんてさせるなよ
と ひとしきり相手の男をこき下ろし

帰りたい帰りたい そんな話しはしなかったが

勝った とつぶやき 翌日も二日酔いで
ろくに口もきけない彼女は
どうみても 後悔していると思うのだけど

あの馬鹿男について 南国をいかに馬鹿にしたか
について話をする時は 歯をくいしばって
湯のみ茶碗を 睨みつけながら両手で握りしめて
帰りたい帰りたい話しはあとまわしにして

でも もうやめてね いっき飲みは という声に
ごめんね と 小さく目を伏せた


自由詩 雪の降る夜 Copyright 砂木 2010-12-30 09:49:24
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