動物園
salco
浅いプールのような
今どきの象舎には鉄柵も濠も無く
リンガムめいたステンレスの円柱の間をつながれてもいないのに
3頭のインド象はゆっくりゆっくりと巡っている
見れば
おとなの1頭は片方の前肢をほんの2センチほど地面から浮かせている
己が体重を支えて佇む骨の痛みなのか
それとも些細な退屈しのぎの所作なのか
こめかみの窪んだ巨大な頭をうなだれ思慮ありげに
伏せた目を上げようともせず
不躾なカメラのレンズから逃れるように横を向いている
右端では人間どもに尻を向けての盛大な排泄に歓声と哄笑が上がる
ゴリラの自尊心なら投げつけるであろう糞のたまりが匂いを立て
その気になればひとまたぎ出来る低いコンクリートの仕切りの中で
象の知性は確かに、制限された自由というものの面積を認識しているのだ
日中をこうして騒がしい見物人達に嘲弄されるのを無視し続けてさえいれば
大好きなりんごやかぼちゃの混ざった食餌をもらえ
夜は四角い清潔な寝床へ入れ、一応は水浴びも泥浴びも
強要された不如意の面積さえ気にしなければ随意であり
たまさかの休園日には担当の飼育員が園内を散歩させてくれるのを
無礼な、しかし境界線で隔てられている、
五月蝿い小動物を黙殺する事に生活上の妥協点を見出して
本能を鼻の中に眠らせている
永劫の不自由と退屈
幽閉を拷問と解釈しない事で受容している、
この巨大な陸棲動物の知性は不思議と、人類と最も近似している