クリスマスツリー点灯式
北大路京介
そんなに大きなツリーというわけではないのだけれど
11か10メートルぐらいのクリスマスツリーの点灯式に呼ばれて
早押しクイズの解答権を得るためのボタンみたいなのがあって、
NHKの『ためしてガッテン』の"ガッテン♪ガッテン♪"いうようなボタンがありまして
そんな点灯ボタンが、3つあって、3人が同時に押して
16時半に点灯ですよ と
15時前に会場入りして、スタッフから説明を受ける。
「3つのボタンが全部押されたら、点灯されるのですか?」
『いや、3つのうちの1つだけホンモノがあります。』
「 と いうと?」
『1つだけクリスマスツリーと繋がってるボタンがあるんです。2つはダミー。』
「じゃぁ、2つは繋がってないのですか?」
『そうです。 まぁ、死刑執行のボタンと同じですよ。』
「精神的負担を減らすため?」
『えぇ。だから気楽に押してください。』
16時からセレモニーがはじまり、点灯ボタンを押す係の僕らは
ひとりひとり名前を呼ばれて、ステージへ上がり、ボタン前に並んだ。
会場に目をやると、赤いサンタ帽子をかぶった小さい女の子を見つけた
隣にいる お母さんにかぶせられたのか 自分でかぶりたいと願ったのか
3,4才ぐらいのワンピースの少女は、じっとこっちを見てて
もしかしたらボタンを押したいのかなぁとテレパシーめいたものをキャッチして
アイコンタクトをかわして、かるく手招きすると 少女は こちらへ走ってきた
それを追いかける お母さん。
僕は、良いんですよ と微笑んで ステージの上に親子を迎え入れた
僕が押す予定のボタンを 親子と僕と3人で押すことになって
けっきょく 女の子に押させてあげることになるのだろうけれど
16時半の少し前から カウントダウンが始まって
5、4、3、2、1
「押して」「押して」
女の子は、押すというより叩く感じでスイッチを押し込んだ
大きなクリスマスツリーのLEDが輝き 拍手が起こった
点灯式も無事済んで、ホッと一息
なにも苦労と思うようなことはしてないけど
多くの人前に立つということに緊張したのか疲れがあって、
温かいコーヒーを飲みたくなった
そんなことを思ったのもつかの間で
拍手に気をよくしたのか 少女は、もう一度ボタンを押した
クリスマスツリーの明るい電飾が消えた
少女が またボタンを押すと 点いた
少女は 電飾が消えて、また点いたのが ツボに入ったようで
ボタンを連打 連打
点いたり 消えたり 点いたり 消えたり
僕のボタンはダミーじゃなかったんだ
点いたり 消えたり 点いたり 消えたり
おもしろがる彼女 ざわつく会場 あわてるスタッフ
1秒間に16連打したら、
ツリーがロケットのように空高く飛んでいけば良いのに
現実逃避しかけたが、壊れるような気もして
やさしく止めた、連打する彼女を
申しわけなさそうな お母さんと 物足りなさそうな 女の子
ちょうど自分用に衝動買いした20cmのクリスマスツリーがあったので
少女にあげた
点いたり消えたりするツリー